多くの場合、事故・災害などの突発的なトラブルに備えるため、事業主は何らかの保険に加入しています。

ただ、実際に建物・車両等に損害が発生して保険金がおりたとき、会計上どのように処理すべきなのか分からず悩むケースは少なくありません。

仮に、損害額をそのまま修繕費として計上すると、すでにその損害分の保険金はもらっているわけですから、仕訳の相手勘定科目が分からず混乱してしまうことでしょう。

この記事では、事業用の機械・車両等に損害が生じたケースを想定して、主に損害保険金を受け取った場合の仕訳について解説します。

保険金がおりたときの修繕費の仕訳

修繕費という勘定科目自体は、それほど複雑な処理を必要とする科目ではありません。

仮に、法人の社用車が事故に遭い、保険会社から直接修理代100万円が支払われる場合は、以下のような仕訳が成立します。

借方貸方
修繕費 100万円雑収入 100万円

修繕費は費用グループに属する勘定科目で、雑収入は収益グループに属する勘定科目ですから、特に問題はなくバランスします。

注意

しかし、個人事業主の場合・先に損害保険金が自社の口座に振り込まれた場合などは、仕訳が変わってきます。

上記を踏まえて、個人事業主・法人それぞれのケースで、損害保険金を受け取った場合の仕訳について確認しましょう。

個人事業主が損害保険金を受け取った場合の仕訳

損害保険金は、原則として「受けた損害分を実額で補償する性質のものです。

よって、損害保険金に関する一連の仕訳は、収益にも費用にも反映させないのが基本です。

例) 事業で使用するプレス機械(帳簿価格100万円)が壊れて、損害保険金120万円が普通預金に振り込まれた。差額の20万円は機械の修繕費に充当した。

借方貸方
普通預金 120万円
事業主貸 100万円
事業主貸 20万円
事業主借 120万円
機械装置 100万円
普通預金 20万円

このように、仕訳上は損害保険金を示す勘定科目を使わずに、事業主貸・事業主借で処理するのが基本です。

法人が損害保険金を受け取った場合の仕訳

法人の場合、損害保険金を受け取ったら「雑収入」の勘定科目で処理します。

計上時期は、支払いの事実が発生した時点、または受け取る金額が確定した時点で計上します。

例) 自社の営業車両が追突により損害をこうむり、70万円の損害賠償金が普通預金に振り込まれた。

借方貸方
普通預金 70万円雑収入 70万円

修繕費の勘定科目を使えるケースとは?

ここまでお伝えしてきた通り、損害保険金を受け取った場合は、原則として相手勘定に修繕費を使いません。

修繕費の勘定科目を使えるのは、損害保険金だけでは十分な修理ができなかった場合などが該当します。

以下、個人事業主のケースを例に仕訳をご紹介します。

例) 事務所の屋根が台風により破損したため、修繕費80万円につき、代金を振込で支払った。なお支払った普通預金口座には損害保険金70万円が振り込まれている。

借方貸方
事業主貸 70万円
修繕費 10万円
普通預金 80万円

このように、個人事業主が損害保険金を受け取った場合、受け取った保険金を上回る部分について修繕費の勘定が使えます。

混同しがちな部分なので、実際に仕訳を切る際は注意しましょう。

保険金に税金は発生しない

損害保険金を受け取った場合の処理で、もう一つ気を付けておきたいのは、損害保険金が税金の課税対象なのかどうかです。

結論から言うと、損害保険金は「損害を補てんする」ためのお金なので、商品・サービスの提供にはならず税金は発生しません。

しかし、例外的に課税されるケースもあります。

それは「販売する商品や原材料」などに対する保険金を受け取った場合です。

考え方としては、本来なら売上になるはずだったものの損失を補てんしているため、収入として計上する必要がある、というイメージです。

倉庫が損害を受け、倉庫だけでなく商品・原材料も補てんするような形であれば、少なくとも商品・原材料の補てん分に関しては税金が発生します。

修繕費の基本的な会計処理について

損害保険金がからまない場合でも、修繕費の勘定科目を使う条件は限られてきます。

保険金の有無にかかわらず、修繕費の勘定科目はどんなときに使えるのか知っておくと、紛らわしいケースが生じた際に混同せずに済むはずです。

修繕費は、資産の原状回復・維持管理のための費用

修繕費

修繕費とは、事業者が経営上必要とする建物・機械などの資産を修理した際に発生する費用のことです。

少し紛らわしいのは、修繕という単語が意味する範囲で、単純に修理したものすべてが修繕費に該当するわけではありません。

具体的には、建物・機械などを

  • 「破損する前の状態に戻す」
  • 「購入時点での状態を維持する」

ために発生した経費が、修繕費にカウントされます。

チェック

例えば、経年劣化した事務所の壁・屋根・窓をリフォームした場合、業務用のノートパソコンの調子が悪いので修理に出した場合などが該当します。

また、経営に必要な機器の保守点検・メンテナンス費用に関しても、修繕費の一部としてカウントされます。

そのため、機器の部品交換が発生した場合でも、金額や内容によっては修繕費扱いとなります。

修理対象の価値が上がるような場合は「資本的支出」となる

修繕費は、あくまでも建物・機械の「機能維持・原状回復」に使った費用を計上するための勘定科目です。

もし、修理の際にもともとの価値を高めるような機能を加えた場合は、その部分に発生した費用は「資本的支出」に分類されます。

具体的な例としては、以下のようなものがあげられます。

  • 外装を塗装してもらう際、それ以前は使われていなかった防水効果のある塗料を使用した
  • これまで使用していたガラスよりも強度のある商品を使い、破損した窓の修理を行った
  • 事務所を改修する際、従業員の安全を考えて、災害時に非難しやすいよう避難階段を設けた
  • 機械の修理を依頼した際、担当者からすすめられて新機能を付け加えた
メモ

資本的支出を行った場合、その部分は修繕費としてではなく、建物や機械などの資産の取得価額に追加して処理を行います。

資産として計上した分は、減価償却の対象となるため、毎年減価償却の処理を行う点にも注意が必要です。

損害保険金が思っていたよりも多く振り込まれたので、修理ついでに現在使用している機器の性能を向上させようと考えた場合、その分は資本的支出にカウントされることになるでしょう。

業務上、アップグレードが必要な場合は賢明な選択かもしれませんが、少なくとも経理上は面倒な処理が1つ増えるものと考えておきましょう。

単なる物品交換の場合は「消耗品費」扱いとなる

機器の部品交換についても修繕費の勘定科目が使えるなら、例えば事務所の蛍光灯の交換も修繕費に含めるのかなど、仕訳にあたりいろいろと疑問が生じるかもしれません。

しかし、当然ながら建物・機械などに発生するあらゆる交換物が修繕費に該当するわけではなく、単なる物品交換の場合は「消耗品費」の扱いとなります。

消耗品費にカウントされる基準として「10万円未満・短期での消耗」があげられます。

ポイント

先ほどの蛍光灯交換は、特別な技術なく「蛍光灯を交換すれば問題なく電気がつく」行為なので、蛍光灯さえあれば基本的には誰でも交換ができると考えてよいでしょう。

逆に、機器が故障して交換すべきパーツや修理すべき箇所は分かっていても、自力で修理するのは技術面で難しい場合は、メーカーや業者に修理を依頼しなければなりません。

そのようなケースでは、現状回復のために他者の技術を提供してもらう必要がありますから、修繕費で処理するのが適当と判断できます。

おわりに

建物や機械の破損等で損害保険金がおりた際、単純に修繕費が相手勘定科目となるケースもありますが、単純に費用計上ができないこともあります。

保険金がおりた際の仕訳については、個人事業主・法人で処理が違う可能性があり、修理の内容が修繕費以上のレベルであれば資産として減価償却が必要になります。

こういった複雑な経理処理にお悩みの方は、記帳代行お助けマンにご相談ください。

実務経験豊富なスタッフが、会計ルールにもとづいて適切に処理いたします。