はじめに


「売上や経費って、実際にお金が動いたときに記録すればいいの?」
「それとも、請求書を出した時点で記録するの?」
経理や確定申告をしていると、必ず耳にするのが「発生主義」と「現金主義」という考え方です。
どちらも会計処理の基本ルールですが、適用方法を間違えると、利益の時期がズレたり、税金の計算を誤ったりする恐れがあります。
この記事では、発生主義の意味から現金主義との違い、さらにそれぞれをどう使い分ければいいのかを、具体例を交えながらわかりやすく解説します。
発生主義とは?

発生主義とは、「お金の動き」ではなく「取引が発生したタイミング」で収益や費用を記録する考え方です。
たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
例:1月に仕事をして、2月に入金があった場合
・仕事をした時点(1月)で売上を計上する。
・実際の入金(2月)は、売掛金の回収として処理する。
このように、「実際にお金が入った時期」ではなく「取引が成立した時期」を基準に記録するのが発生主義です。
現金主義とは?
一方の現金主義とは、お金が実際に入ったとき・出たときに収益や費用を記録する考え方です。
先ほどと同じ例で言えば、
・2月に入金があった時点で売上を計上する。
・1月の時点では何も記録しない。
つまり、「現金の動き」にフォーカスして帳簿をつけるのが現金主義です。
【比較】発生主義と現金主義の違いまとめ

| 項目 | 発生主義 | 現金主義 |
|---|---|---|
| 記録の基準 | 取引の発生時点 | お金の出入り時点 |
| 売上計上のタイミング | 商品・サービスを提供した時 | 代金を受け取った時 |
| 経費計上のタイミング | サービスを受けた時 | 支払をした時 |
| 正確性 | 高い(実態を反映) | シンプル(現金管理に便利) |
| 主な利用者 | 法人、青色申告者 | 個人事業主(小規模) |
| 税務処理 | 法人は原則発生主義 | 個人は現金主義も選択可 |
なぜ発生主義が原則なのか?

発生主義が原則とされている理由は、企業の実際の経営状況を正確に反映できるからです。
例えば、次のようなケースを考えてみましょう。
例:年末に大量の売上が発生したが、入金は翌年
現金主義の場合、翌年に入金があるため、今年の売上には計上されません。
しかし実際には、今年の努力によって売上が生まれたので、今年の利益として計上すべきです。
このように、発生主義は「会計期間ごとの業績を正しく測定するため」に最も適している方法なのです。
現金主義が採用できるケース
発生主義が原則とはいえ、すべての事業者がそれを採用しなければならないわけではありません。
個人事業主や小規模事業者には、現金主義を選べる制度が用意されています。
現金主義による所得計算を選択できる条件(所得税法上)
・青色申告者であること
・前々年の事業所得・不動産所得の合計が300万円以下であること
・税務署に「現金主義による所得計算の特例届出書」を提出していること
この条件を満たす個人事業主は、現金主義で帳簿をつけることができます。
【図解イメージ】発生主義と現金主義の違い

<発生主義>
1月:売上発生 → 売掛金計上
2月:入金 → 売掛金消し込み
→ 売上は1月の収益
<現金主義>
1月:売上発生(記録なし)
2月:入金 → 売上計上
→ 売上は2月の収益
このように、同じ取引でも「利益が計上されるタイミング」が異なるため、
選択した会計基準によって決算結果や納税額が変わってくるのです。
発生主義のメリット・デメリット

メリット
- 正確な期間損益がわかる
実際の取引時点で記録するため、会計期間ごとの成果を正確に把握できる。 - 売掛金・買掛金の管理ができる
入金・支払いの未処理が見える化され、資金繰り管理に役立つ。 - 融資・決算資料で信頼されやすい
金融機関や投資家にとって、より正確な経営状況を示せる。
デメリット
- 仕訳が複雑になる
売掛金・買掛金などの管理が必要で、現金主義より手間が増える。 - 実際の資金繰りとズレる
利益が出ていても現金が不足することがある(いわゆる黒字倒産リスク)。
現金主義のメリット・デメリット

メリット
- シンプルで初心者向き
入出金だけを記録すればよく、帳簿が簡単。 - 現金残高と一致しやすい
口座の動きと帳簿が一致するため、管理がしやすい。
デメリット
- 経営実態を正確に反映できない
取引の発生タイミングを無視するため、期間損益がズレる。 - 資金繰り予測が難しい
売掛金・買掛金の情報がないため、将来の入出金が見えにくい。 - 一定以上の規模では認められない
法人や大規模事業では必ず発生主義を採用する必要がある。
【どちらを選ぶべき?】発生主義と現金主義の使い分け方

| タイプ | おすすめの会計基準 | 理由 |
|---|---|---|
| 法人 | 発生主義(必須) | 会計法上の原則であり、信頼性が高い |
| 個人事業主(年商300万超) | 発生主義 | 事業規模拡大や融資を視野に入れる場合 |
| 個人事業主(小規模・青色申告) | 現金主義 | 記帳が簡単で事務負担が軽い |
| 開業初期・現金商売中心 | 現金主義 | 現金ベースで管理した方がわかりやすい |
【実務例】マネーフォワード・freeeではどう設定する?

クラウド会計ソフトを利用する場合、初期設定で「発生主義」「現金主義」の選択が可能です。
発生主義:請求書の発行時点で売上計上、入金時に売掛金消込
現金主義:入出金があったときのみ売上・経費計上
また、発生主義にしていても、「現金主義風」にレポートを切り替えて資金繰りを確認できる機能もあります。
つまり、帳簿は発生主義、管理は現金主義的に行うハイブリッド運用も可能です。
まとめ:発生主義を理解すれば、経営の“実態”が見える
・発生主義=取引が発生した時点で記録
・現金主義=現金の動きで記録
・発生主義は法人の原則、現金主義は小規模個人向け
・利益とキャッシュは必ずしも一致しない
・「会計は発生主義」「管理は現金主義」で使い分けるのがベスト
会計の目的は、税金を計算することだけではなく、事業の実態を正確に把握することです。
発生主義を理解しておけば、売掛金・未払金・前払費用なども自然と見えるようになり、
資金繰りや経営判断の精度が格段に上がります。
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