事業上の都合などで、個人事業主が土地購入に向けて動いた場合、そのあとは会計処理が必要です。

具体的には、それぞれ仕訳を切り、資産や経費の計上をしなければなりません。

土地など不動産の購入に関しては、仕訳も含めて各種手続きが煩雑なため、タイミングによってやるべきことが多いのが特徴です。

この記事では、主に事業に必要な土地を購入する個人事業主を対象に、土地購入時の仕訳について解説します。

個人事業主が事業のため土地を購入する際の仕訳

まずは、土地購入時に仕訳を切る必要があるケースと、契約のタイミングで切る仕訳についてお伝えします。

ベースとなる知識として、土地は「資産」勘定であることを念頭に考えていくと、仕訳の流れがスムーズに理解できるかもしれません。

どんなケースの土地購入が対象となる?

個人事業主が、事業のために土地を手に入れた場合、勘定科目「土地」を使って仕訳を切ります。

多くの場合、購入費用は10万円を超えるため、固定資産台帳に計上することになります。

土地勘定で仕訳を切るケースとしては、以下のような例があげられます。

  • 建物の敷地として(事務所・店舗・工場等)
  • 仕事用、来客用の駐車場
  • 業務で必要なものを置いておく資材置き場

このほか、新たに農地を獲得した場合も土地勘定となります。

建物や車両などを購入した場合、その価値は逓減するので、減価償却の処理が必要です。

重要

しかし、土地に関しては使用することで価値が逓減するわけではないので、減価償却の対象外です。

このように、土地の経理処理は他の資産と異なる部分がありますから注意しましょう。

土地購入時の「仮契約」と仕訳について

世間一般の慣習として、不動産を購入する際に「仮契約」と「本契約」があるものと考えている人は多いかもしれません。

チェック

具体的には、手付金を支払ったタイミングが仮契約で、残りの代金を支払って物件の引き渡しが成立したタイミングが本契約といった認識です。

しかし、実はそれは正しい認識ではなく、そもそも不動産契約において仮契約という概念は存在しません。

よって、仮契約の段階で土地に関する仕訳を行うことはありません。

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仮契約時に行う仕訳とは?

とはいえ、商取引の流れの中で、物件の確保のためには手付金の支払いが必要です。

そのため、代金の一部を支払う際に使用する勘定である「前渡金」や「前払金」を使用します。

例)不動産の売り主から1,000万円の土地を購入するに先立ち、代金の1割を手付金として現金で支払った。

借方貸方
前渡金 100万円現金 100万円

仮契約書の作成があった場合はどうする?

本契約を前提として、仮契約書を作成する場合は、契約書に印紙を貼る形になります。

よって、以下の通り印紙税の支払いについて仕訳を行います。

例)不動産の売り主から1,000万円の土地を購入するにあたり、仮契約書に1万円の印紙を貼った。

借方貸方
租税公課 1万円 現金(印紙) 1万円

ちなみに、本契約書を作成した際には、原則としてそちらも印紙税の課税対象となる点に注意が必要です。

本契約に至った場合の仕訳

無事に契約が進み、後日銀行で残りの代金の決済・不動産引き渡しを行った場合、以下の通り仕訳を切ります。

例)不動産の売り主から1,000万円の土地を購入するにあたり、前渡金100万円を除いた残りの金額を普通預金口座から振り込んだ。また、本契約書に印紙1万円を貼った。

借方貸方
土地 1,000万円
租税公課 1万円
普通預金 900万円
前渡金 100万円
現金(印紙)1万円

売り主と買い主の間に誰もいなければ、基本的に上記の仕訳で問題ありません。

しかし、多くの場合は仲介業者を介したり、司法書士に支払う登記費用を負担したりします。

よって、よりリアルなケースを想定するならば、以下のような形で仕訳を切るのが妥当です。

例)不動産の売り主から1,000万円の土地を購入するにあたり、前渡金100万円を除いた残りの金額を普通預金から振り込んだ。また、以下の通り費用が発生したため、それぞれ経費または取得原価に算入した。

  • 本契約書に必要な印紙1万円(経費計上)
  • 司法書士に支払う登記費用5万円(経費計上)
  • 不動産仲介業者に支払う仲介手数料30万円(土地の取得価格に算入)
  • 不動産引き渡し時に支払う固定資産税の清算金8万円(土地の取得価格に算入)

なお、上記4点の金額はすべて現金で支払ったものとする。

借方貸方
土地 1,038万円
租税公課 1万円
支払手数料 5万円
普通預金 900万円
前渡金 100万円
現金(印紙)1万円
現金(登記費用)5万円
現金(仲介手数料)30万円
現金(固定資産税の清算金)8万円

土地に建物を建てる場合は、より複雑な仕訳を切ることになります。

よって、自分で処理するのに不安を感じている方は、専門家に相談しながら対応することをおすすめします。

その他、必要に応じて切らなければならない仕訳

土地を購入した場合、土地を購入するタイミングで起こす仕訳のほかに、購入後に支払う費用の仕訳も起こす必要が出てきます。

また、ローンを組んで土地を購入した場合は、先にご紹介した仕訳とは別の形で処理をしなければなりません。

不動産取得税

不動産を取得してから、概ね3~6ケ月ほど経過すると、不動産取得税の課税通知書が届きます。

課税通知書が届いたとき、または支払いを完了したときに仕訳を切ります。

例)県税事務所から不動産取得税の納税通知書が届いたため、8万円を現金で支払って費用計上した。

借方貸方
租税公課 8万円現金 8万円

なお、不動産取得税の処理に関して、法人名義の場合は資産に計上することもできます。

しかし、個人事業主は必ず経費計上しなければなりませんから、土地の金額に含めないよう注意が必要です。

ローン

土地のように大きな買い物をする場合、必ずしも現金一括で購入できるとは限りません。

そのため、ローンを組んで購入するケースは珍しくないでしょう。

ローンを組んだ場合、現金を金融機関から借りることになるため、例えば以下のような仕訳を切ります。

例)不動産の売り主から1,000万円の土地を購入するにあたり、前渡金100万円を除いた残りの金額を銀行から借り入れて支払った。また、以下の通り費用が発生したため、それぞれ経費または取得原価に算入した。

  • 本契約書に必要な印紙1万円(経費計上)
  • 司法書士に支払う登記費用5万円(経費計上)
  • 不動産仲介業者に支払う仲介手数料30万円(土地の取得価格に算入)
  • 不動産引き渡し時に支払う固定資産税の清算金8万円(土地の取得価格に算入)

なお、上記4点の金額はすべて現金で支払ったものとする。

借方貸方
土地 1,038万円
租税公課 1万円
支払手数料 5万円
長期借入金 900万円
前渡金 100万円
現金(印紙)1万円
現金(登記費用)5万円
現金(仲介手数料)30万円
現金(固定資産税の清算金)8万円

また、月々の返済に関しては、以下の通り仕訳を行います。

例)金融機関から土地購入のため借り入れた900万円について、月々10万円ずつ返済することとなり、最初の返済分を普通預金から支払った。

借方貸方
長期借入金 10万円普通預金 10万円

プライベートの出費で土地を購入した場合の仕訳

事業で使う土地につき、購入費用を自分の財布から出した場合、個人事業主は少し特殊な仕訳を行います。

「事業主が(事業から)お金を借りる」という意味合いで用いる「事業主借」という勘定科目を使って、土地購入の仕訳を行います。

例)1,000万円の土地につき、プライベートの口座からお金を引き出して購入した。

借方貸方
土地 1,000万円事業主借 1,000万円

似たような勘定科目に「事業主貸」があり、こちらは「事業用の口座から事業主のためにお金を出した」場合に用いられます。

個人事業主の場合、事業用口座・プライベート口座が明確に分かれていないケースも珍しくないため、それぞれの使い分けに注意したいところです。

おわりに

個人事業主が事業用の土地を購入する場合、あくまでも事業目的で使用することを踏まえて仕訳を切ることが大切です。

一応、事業主借を貸方に使って仕訳をまとめることはできますが、事業の枠組みの中から支払いが発生しているなら、きちんと仕訳を切っておいた方が賢明です。

もし、自力で仕訳を切るのが不安な方は、記帳代行お助けマンにご相談ください。

経験豊富なスタッフが、お客様のケースで必要な対応を迅速に行います。