はじめに

会社を運営する中で、従業員の賃金台帳は労働基準法で作成・保存が義務付けられています。
では、社長や取締役といった「役員」にも賃金台帳は必要なのでしょうか?
結論から言うと、「原則として不要」ですが、実務上は作成しておくことが望ましいケースもあります。
この記事では、役員に賃金台帳が不要とされる理由から、作成した方が良い場合の判断基準、記載内容、給与明細との違いまでをわかりやすく解説します。
賃金台帳とは?

賃金台帳とは、従業員に支払った賃金(給与・賞与など)の詳細を記録した帳簿です。
労働基準法第108条により、事業主はすべての労働者について賃金台帳を作成し、3年間保存することが義務付けられています。
賃金台帳には以下の情報を記載する必要があります。
記載が必要な項目
- 労働者の氏名
- 性別
- 賃金の計算期間
- 労働日数・労働時間
- 基本給、手当などの支給額
- 控除額(社会保険料、所得税など)
- 差引支給額
つまり、労働条件や給与支払いの根拠となる重要書類という位置づけです。
役員は「労働者」ではないため、賃金台帳は原則不要

労働基準法で定める「労働者」とは、会社に雇用され、指揮命令のもとで労務を提供する者を指します。
一方、役員(取締役・代表取締役など)は会社の経営側の立場であり、労働者には該当しません。
そのため、
- 労働契約を結んでいない
- 労働時間の拘束を受けていない
- 業務命令の対象ではない
といった理由から、賃金台帳を作成する義務はありません。
役員に支払われるのは「給与」ではなく「役員報酬」という位置付けです。
そのため、給与台帳や労働保険の対象にもなりません。
それでも賃金台帳を作成した方が良いケース

賃金台帳の作成は義務ではありませんが、次のような場合には任意で作成しておくことをおすすめします。
① 役員報酬を定期同額給与として支給している場合
法人税法上、役員報酬は原則「定期同額給与」でなければ損金算入できません。
毎月同じ金額で支給していることを証明するために、賃金台帳のような支給記録を残しておくと、税務調査時にも安心です。
② 役員が社会保険に加入している場合
健康保険や厚生年金に加入している役員の場合、
報酬支給額の記録を賃金台帳形式で管理しておくと、保険料の算定や届出がスムーズです。
③ 家族を役員にしている場合
家族が役員として報酬を受け取っていると、税務署は「実態のない報酬(経費水増し)」を疑うことがあります。
支給実績を明確に示すためにも、賃金台帳形式の記録を作成しておくと有効です。
役員報酬台帳(または賃金台帳)を作る際のポイント

役員の報酬について管理する場合、形式上は「賃金台帳」と同じ体裁で問題ありません。
記載すべき主な項目は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名・役職 | 代表取締役・取締役など |
| 支給年月 | 例:2025年12月分 |
| 支給額 | 基本報酬・手当など |
| 控除額 | 所得税・住民税・社会保険料など |
| 差引支給額 | 実際に振込まれた金額 |
| 備考 | 振込日・支給口座など |
フォーマットは従業員の賃金台帳と共通でもOKです。
ただし、「役員報酬台帳」などと名称を変えて区別しておくとわかりやすいです。
賃金台帳と給与明細の違い

賃金台帳と給与明細は似ていますが、目的と保管義務が異なります。
| 比較項目 | 賃金台帳 | 給与明細 |
|---|---|---|
| 作成義務 | 法律で義務(労働者分のみ) | 義務ではないが交付が慣習 |
| 保存期間 | 3年間(法定) | 任意 |
| 管理目的 | 会社内部の記録・税務証拠 | 従業員への明細交付 |
| 対象 | 労働者(役員は除く) | 全従業員・役員など問わず可 |
役員の場合は法的義務のない「給与明細」だけを発行しておくケースが一般的です。
税務上の注意点

① 定期同額給与の証拠を残す
役員報酬は、法人税法上「定期同額給与」でなければ経費(損金)に算入できません。
期中で金額を変更すると、その変更後の報酬が損金不算入となります。
→ そのため、毎月同額で支給している証拠として「賃金台帳形式」で報酬支給を記録しておくのがベストです。
② 源泉徴収票との整合性を確保する
役員報酬も給与所得として源泉徴収の対象になります。
賃金台帳を作成しておけば、年末調整・法定調書の作成時に源泉徴収票との金額の整合性を取りやすくなります。
③ 社会保険料・住民税の控除記録を明確に
役員が社会保険や住民税を会社経由で支払っている場合、
毎月の控除金額を明記しておくことで、支払漏れや控除誤りを防げます。
まとめ

| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 法的義務 | 役員は労働者でないため、賃金台帳は原則不要 |
| 実務上の対応 | 税務・社会保険対応のため任意作成が望ましい |
| 管理の目的 | 定期同額給与の証拠・控除額の記録・税務調査対策 |
| 給与明細との違い | 台帳は会社保管、明細は本人交付 |
| 保存期間 | 台帳は3年を目安に保管(従業員と同様でOK) |
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