はじめに

家族や親族が経営に関わる中小企業では、「役員なのか従業員なのか」の線引きが曖昧になりがちです。
特に税務上問題になりやすいのが「みなし役員」。

一見ただの従業員のように見えても、実質的に経営に関与していると判断されると、「みなし役員」として扱われ、給与の税務上の取り扱いが変わることがあります。

この記事では、みなし役員の定義や判定基準、給与処理への影響、そして家族経営における注意点をわかりやすく解説します。

みなし役員とは?税務上の定義を解説

まず、「みなし役員」とは法律上の役職名ではなく、税法上の概念です。
法人税法上では、以下のように定義されています。

「役員以外の者であっても、実質的に経営に従事している者を“役員とみなす”」

つまり、登記上は役員でなくても、実態として会社の意思決定に関与している人は、税務上「みなし役員」とされる可能性があります。

みなし役員と判断される3つの要件

税務署が「みなし役員」と判断する際には、以下の3要件のいずれかに該当するかを確認します。

判定要件内容該当しやすいケース
① 会社の経営に従事している経営方針や重要事項の決定に関与代表の配偶者や親族が意思決定に参加している
② 業務執行の権限を持っている契約締結・取引交渉などを自ら行う社長の代わりに取引先と交渉・契約
③ 株主等として経営支配力を持っている株の過半数を保有・経営を支配家族が株主であり、実質的に経営に影響を与える

これらに該当する場合、登記上「平社員」であっても、税務上は「役員」として扱われます。

税務上「みなし役員」とされるとどうなる?

① 給与が「役員報酬」として扱われる

みなし役員と判断されると、支払われる給与は「役員報酬」として処理しなければなりません。
この場合、一般社員と異なり、次の制限が生じます。

  • 定期同額給与の原則:毎月同じ金額でなければ損金にできない
  • 期中変更不可:期首3か月を超えて変更すると、増額部分が損金不算入
  • 賞与扱いの給与は損金にならない

たとえば、社長の妻に「繁忙期だけボーナスを支給」していた場合、
みなし役員と判断されるとそのボーナス分は損金不算入(経費として認められない)となります。

② 賞与・臨時手当が経費にできない

役員報酬は原則として、事前に決定された定期同額給与しか経費にできません。
そのため、「がんばったから今月は上乗せ」という柔軟な給与体系は認められず、
法人税の計算上は損金から除外されることになります。

③ 社会保険の扱いも変わる

みなし役員となった場合、社会保険(健康保険・厚生年金)では「役員」として標準報酬月額が見直されることがあります。
報酬額によっては保険料が上がることもあるため、人件費全体の負担増につながる点にも注意が必要です。

税務署が注目する「家族経営」のみなし役員リスク

家族経営の会社では、次のようなパターンでみなし役員と認定されるケースが多発しています。

ケース①:社長の配偶者が経理・管理全般を担当
配偶者が経理や給与計算、契約書作成など会社の重要業務を任されている場合、
「経営実務に関与している」とみなされ、みなし役員となる可能性があります。

ケース②:親族が代表不在時に意思決定
代表取締役の不在時に、家族が取引先と契約・価格交渉などを行う場合も要注意。
実質的な経営権限があるとみなされ、役員扱いになることがあります。

ケース③:家族全員が株主
特に同族会社では、家族が会社の株式を一定割合以上保有していると、
形式上の役職に関わらず、税務署から「経営支配者」と判断されることがあります。

みなし役員とされると起きるトラブル

  1. 給与の一部が損金不算入になり、法人税が増える
  2. 過年度分も遡って修正を求められる可能性がある
  3. 源泉所得税・社会保険料の再計算が必要になる

特に、「家族にボーナスを支給していた」「給与額を年度途中で変更した」などのケースでは、
過去の申告を修正することになり、思わぬ追徴課税が発生するおそれがあります。

判定チェックリスト:あなたの家族はみなし役員か?

以下の項目に3つ以上当てはまる場合、みなし役員と判断される可能性があります。

  • 経営方針や重要な取引の決定に関与している
  • 取引先との契約交渉を行っている
  • 会社の通帳や印鑑を管理している
  • 代表者が不在のときに業務を仕切っている
  • 株式を一定割合以上保有している
  • 代表取締役と同居・生計を一にしている

当てはまる場合は、給与処理や契約書類の見直しが必要です。

家族経営における実務ポイント

家族経営の場合、税務署は「形式より実態」を重視します。
名義上の肩書や登記よりも、「実際にどのような権限を持っているか」で判断されます。

そのため、

  • 家族の給与を「従業員給与」として処理する場合は、業務内容・出勤記録・給与明細を明確に残す
  • 経営判断を家族で共有している場合は、議事録や株主構成の整理を行う
    ことが重要です。

まとめ:みなし役員は「知らなかった」では済まされない

  • みなし役員は、登記上の役職に関係なく「経営実態」で判断される
  • 役員報酬扱いになると、定期同額給与の制約を受ける
  • 家族経営では、職務内容・権限・株主構成の整理が不可欠
  • 税務調査でみなし役員と認定されると、過年度修正・追徴リスクが高い

家族で協力しながら経営することは強みですが、税務上の線引きを誤ると大きな損失につながります。
あいまいな立場のままにせず、早めに専門家へ相談するのが安心です。

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